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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)830号 判決

控訴人

有限会社ミツクラ

右代表者

伊墻功

右訴訟代理人

畑野有伴

被控訴人

株式会社赤堀商店

右代表者

赤堀末一

外一〇名

右一一名訴訟代理人

磯崎良誉

磯崎千寿

主文

原判決を取り消す。

東京地方裁判所が昭和四四年七月二五日同庁昭和四四年(ヨ)第二五三号仮処分申請事件についてした仮処分決定を取り消す。

被控訴人等の仮処分申請を却下する。

訴訟費費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。

事実《省略》

理由

一、控訴人が本件実用新案権の権利者である伊墻功から専用実施権の設定を受けたこと、本件考案の登録請求の範囲が被控訴人等主張のとおりであること、被控訴人等が、被控訴人諏訪を除き、被控訴人等主張の構造を有するフイゴ履を業として製造販売しており、被控訴人諏訪が前記フイゴゴ履に用いるフイゴを業として製造販売していることは、いずれも当事者間に争いがない。

二(一) 前叙の当事者間に争いがない本件考案の登録請求の範囲および〈書証〉によれば、本件考案の構成要件は、

(1)  弾力性ある多孔性物質の芯台1を備え、

(2)  芯台1に空洞部2を設け、

(3)  空洞部2より導孔3を外方に開口し、

(4)  導孔3に鳴笛4を取り付け、

(5)  芯台1の下部より底版5を、上部より上版6を接着して成る

(6)  履物台

であることが一応認められる。

(二) 「フイゴ履」が原判決添付物件目録記載の構造を有することは、当事者間に争いがなく、それによれば、フイゴ履の構成は、

(1)' 弾力性ある多孔性物質の芯台(1)を備え、

(2)' 芯台(1)に空洞部(2)を設け、

(3)' 空洞部(2)より導孔(3)を外方に開口し、

(4)'a 導孔(3)内に嵌入された後記通気筒(8)に鳴笛(9)を嵌着し、

(4)'b 弾力ある硬質樹脂材料をもつて自力による復元性を有する蛇腹状胴部(7)と通気筒(8)を備えたフイゴ体(A)'を成形するとともに、蛇腹状胴部(7)を空洞部(2)内に嵌入し、

(5)' 芯台(1)の下部より底版(5)を、上部より上版(6)を接着して成る

(6)' 履物台

に爪掛用ベルト(10)を取り付けて構成したサンダル

であることが一応認められる。

(三) この構成を本件考案の構成要件と対比してみると、フイゴ履は本件考案にはない(4)'bの構成を備えているほかは、(4)'aが本件考案の(4)と一致しないだけで、その余の構成は本件考案の(1)、(2)、(3)、(5)、(6)の構成と同一であることが明らかである。

(四) そこで、フイゴ雇の(4)'aの構成が本件考案の(4)の構成と異なるかどうかについて判断する。〈書証〉によれば、本件考案の登録出願前、履物台に鳴笛を取り付け、歩行によつて発鳴するようにした公知技術としては、履物台の踵部(芯台)に空洞部を設け、空洞部に発条を入れ、その屈伸に伴う芯台内の空気の吸排により鳴笛を発鳴させるものが知られていたこと、本件考案はこの発条を入れる必要をなくすことを目的とし、前記の構成により、踵部にかかる体重によつて芯台自体を弾性変形させ、これに伴う芯台内の空気の吸排により鳴笛を発鳴させることによつてその目的を達成したものであること、したがつて、本件考案の(4)の構成は、芯台1の弾性変形に伴う芯台内の空気の吸排によつて鳴笛4が発鳴するように、これを空気の吸排が行われる導孔3に緊密に嵌合するものであつて、鳴笛4を導孔3に直接取り付けることに限定されていないことが一応認められる。一方、前認定のフイゴ履の構成によれば、その鳴笛(9)は通気筒(8)を介して導孔(3)に緊密に嵌合されており、踵部にかかる体重による芯台(1)の弾性変形とこれに伴つて生ずるフイゴ体(A')の蛇腹状胴部(7)の伸縮によつて生ずる芯台(1)内の空気の吸排によつて発鳴するものであることが明らかであり、通気筒(8)を介在させたことは(4)'bの構成を附加するための当然の設計であつて、これによつて格別の効果は生じないものであることが一応認められる。そうだとすると、フイゴ履の構成(4)'aは本件考案の構成(4)と同一の構成であると認めるのが相当である。被控訴人等は本件考案では空洞部2内の空気が鳴笛4を発鳴させるのに対し、フイゴ履の鳴笛(9)の発鳴はフイゴ体(A)'の蛇腹状胴部(7)内の空気によつてなされ、空洞部(2)内の空気はこれに全く関与しないから、フイゴ履の鳴笛(9)は本件考案の鳴笛4と同一視することができない旨主張し、〈書証〉にはこれに添う記載があるが、蛇腹状胴部(7)は芯台の空洞部内にあるもので、蛇腹状胴部(7)内の空気は芯台空洞部内の空気と同一視することができ、芯台内の空気の吸排によつて鳴笛が発鳴する作用は、いずれも芯台の弾性変形に由来する点で両者とも同一であるから、被控訴人等の主張は採用の限りではない。

(五)以上に認定したとおり、本件考案の(4)とフイゴ履の(4)'aとは同一の構成であるから、フイゴ履は本件考案の構成要件を全部備えているものであり、ただこれに(4)'bの構成を余分に附加したものということができる。したがつて、(4)'bの構成を附加したことにより被控訴人等主張の作用効果が生ずると否とにかかわりなく、フイゴ履は本件考案の技術的範囲に属するといわなければならない。

三してみると、フイゴ履が本件考案の技術的範囲に属しないことを前提とする被控訴人等主張の被保全権利は、疎明がないことに帰するから、被控訴人等の仮処分申請は却下を免れない。

よつて、これと結論を異にする原判決および主文第二項掲記の仮処分決定を取り消し、被控訴人等の仮処分申請を却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用し主文のとおり判決する。

(古関敏正 滝川叡一 宇野栄一郎)

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